若者たちはローン地獄に追いやられた
- 高下 豊光
- 2022年1月6日
- 読了時間: 4分
この詐欺まがいのカーシェアリングは、立件できるだろうか。
埼玉県某所の広大な駐車場には、名だたる高級車がすし詰め状態で停められている。

その数、200台はゆうに超える。この車のオーナーたちは、羨望の対象とは対極の、追い詰められた状況にある。
それは、カーシェアリングに投資し、高級車を購入してしまった被害者たちだ。
ほとんど20、30代の若者たちだという。
「自分の車が、いまどこにあるのかわかっていません。わかればいますぐにでも探しに行きたいのですが……」 だが、彼は有益な投資ビジネスとXらから勧誘され、7年ローンで車を購入してしまった。そのクルマを取り戻しても、外傷がひどく査定額はほぼ10分の1だそうだ。乗れない、転売できない高級車をかかえて、ローンだけが残っているという。

「オーナーになると一時金として50万円をもらえると言われ、飛びついてしまいました。費用は一切かからない。車をカーシェアとしてユーザーに貸し出し、利益が出たらさらに還元する、という話でした」
甘い話に乗ってしまった契約者は、いま後悔のどん底で苦しんでいる。
10月8日に、Sグループは事業停止。おそらく、計画倒産にちがいない。投資家は、多額のローンの残債を抱えることになってしまった。 Hさんが信販会社と交わした84回払いのローン契約書がある。 きっかけは3年前、Sグループの代表で“会長”と呼ばれていたXとの出会いだった。
「当時、私は500万円の多重債務に苦しんでいました。そんな時、不動産購入でオーバーローンを組めば、借金が棒引きできるウラ技があることを知ったのです。そして、知人の紹介で仲介業者として現れたのが、Xでした」
「売主と組んで、不動産価値を高く偽装するのです。その差額分のなかに、当初あった500万円の借金や、Xが中抜きする分が含まれている。Xに言われるままに、私は神奈川県の一戸建ての新築物件を購入する手続きを進めました。そして、審査が通ったのです。いまは、その物件を人に貸し、入ってくる家賃収入をローン返済に充てています」
もちろん、不動産購入の目的以外でオーバーローンを組むことは、違法性のある行為である。Xはカーシェア業以外にも、このようないかがわしいビジネスに手を染めていたのだ。
同じカラクリが、カーシェアでも使われている。ただ、それに気づいたのは、Sグループが破綻し、ほかの被害者たちと連絡を取り合うようになってからのこと。購入した時は、彼らが語るビジネスモデルを信じ込んでしまっていた。被害者の多くは、車に関する知識がない若者ばかりである。
彼が購入したアルファードの車体価格は800万円。だが、本当の仕入れ値は「300~400万円くらいだったのではないか」という。中古車販売業者を絡ませ、特別仕様だとか偽装し、800万円の価値がある車として販売するのだ。完全にグルな業者もあれば、事情を知らずに委託販売しただけの業者もいるそうだ。
私たちは実際に車に乗るわけではないので、車の確認すらしない。Xから紹介され、言われるままに信販会社の7年ローンの審査書類を書かされました。年収も本当は500万円でしたが、『それじゃあ審査が通らないから850万と書いて』と。信販会社も儲けたいから、審査を通してしまう。
このローンを組むことでHさんは50万円を報酬として得たが、当然、毎月のローン返済も発生する。84回払いなので分割手数料も高く、月々の支払いは約14万円にもなるが、それはすべてSグループが代わりに支払ってくれるという話であった。ローン代、保険料、駐車代に加えて、自動車税も。さらに、自分が所有する車の売り上げの5%もボーナスでもらえますよと。実際にその後、毎月、保険代を加えたローン代金が、傘下の会社から振り込まれていた。費用は、カーシェアビジネスでまかなっていけるというのが、彼らの話でした、という。
当初の説明では、契約後2年が経過した時点で、Sグループがローン残債を一括で支払い、車を買い上げてくれるという話だったという。
「私が契約したのは2019年1月で、今年1月に満期を迎えたのですが、『7年契約に延長してくれたら、月々1万円の報酬を出します』と彼らから強く勧められ、安易にサインしてしまったのです。
すると、8月末から入金が止まってしまった。Xに電話してもつながらない。会社に電話をしても担当者は辞めたという。そして10月上旬に破産手続きに入るとの連絡が入ったのです」
残った借金は900万円近くにも上るが、 「私の手取りは30万ちょっと。14万もローンを払っていたら、生活できません。いまは銀行ローンへの借り換えを検討しながら、車を取り返すべく所在を探しています。見つかり次第、すぐに売却しローン返済に充てるつもりです。
だが、健全な高級車はほとんどないという。
おそらく、新型コロナの影響で高級車の借り手が極端に減少したのだろう。
事業者は、騙すつもりはなかった、と強弁し立件を防ぐだろう。
投資した若者は、このビジネスはおかしいと疑心を抱くべきだった。
まず高級車にも拘らず、その利用料が破格に安すぎるのだ。
投資で蓄財、濡れ手に粟のおいしい話には要注意である。
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