東大卒の肩書はそんなに魅力的か
- 高下 豊光
- 2021年11月15日
- 読了時間: 3分
日本ほど若者たちを滅茶苦茶にした国は、他にはなかった。

不安定な雇用環境を創出したのは、小泉・竹中改革である。
年金さえ払えない若年労働者を生み出し、年金制度を破綻寸前に追いやっている。
非正規雇用者の受け入れは、製造業者にはそれまで禁止されていた。それを全面的に解除したのが竹中平蔵氏である。
人材派遣会社の「パソナ」には利権が集中する。見る間に大企業へと膨れ上がった。
竹中平蔵氏は、戸籍を海外に移し、その間の所得税を免れている。なんという世渡りの天才だろうか。
言葉巧みに政権中枢に入り込み、担当大臣退任後にはそのパソナの会長職に就任している。
経済学者というには生臭く軽い言動、政商と呼ぶにはダイナミズムが足りない。
彼は、テレビ番組で「トリクルダウンなんてありえない。待ってるだけでいいわけがない」と発言していた。
「2013年に出版された『ちょっと待って!竹中先生、アベノミクスは本当に間違ってませんね?』(ワニブックス)で、竹中氏は〈企業が収益を上げ、日本の経済が上向きになったら、必ず、庶民にも恩恵が来ますよ〉と言い切っている」竹中氏自身は、著書の中であきらかにトリクルダウンの効果を認め、広めていたのである。
小泉純一郎元首相の〝構造改革〟と切っても切れない関係がある竹中平蔵氏だが、この〝構造改革〟は当時(2001年)から経済学者クルーグマン氏によって厳しく批判されていたのである。
構造改革による「供給(サプライ)サイド」改革は、やがては「需要サイド」にも効果を及ぼすはずだというのが竹中氏の理屈だった。
それはあくまで「長期的」な展望であり、しかも構造改革が実行されれば、企業のリストラにともなう失業者の増加が予想されるから、「長期的」に見ても逆の効果、つまり、需要サイドにマイナス効果を与えることが十分考えられた。
また、大胆な改革を行うほど後者のシナリオ(失業者の増加)が実現する危険性は高くなるのだ。
竹中平蔵氏が主張する「構造改革」をほんとうに実行するなら、「構造改革か、さもなくば破滅」という二者択一どころか、「構造改革による破滅」を導くだけだろうと、クルーグマンは警告していたのである。
〝構造改革〟は実際には「政治的な戦略判断」で進められた。その「政治的な戦略判断」をしたのは小泉純一郎元総理であった。そして「官から民へ」「改革なくして成長なし」という小泉氏の政策を実行したのが竹中平蔵氏である。この〝構造改革〟で肝心なのは「医療、介護、福祉、教育など従来主として公的ないしは非営利の主体によって供給されてきた分野に競争原理を導入する」ことにある。そこにはさまざまな利権が発生する。
その甘い果実をむしり取って懐にしまい込んだのが我らが竹中平蔵教授であった。
では、何が彼のような人物を作り上げたのであろうか。
彼は銀行員から出発して経済学者へ転身した。学者といっても経済理論の追求ではなく経済政策・国家政策に関わることに早くから関心を寄せていたのだ。
彼の大きな転機となったアメリカへの留学、そこで見たものは、多くの経済学者たちが多額の報酬を受けて政策立案者として政府、政党あるいは企業の研究機関に参加している姿である。それを目の当たりにして彼の関心は政策コンサルタントとして活動することに向けられたのだ。
帰国後、竹中氏は自ら政治家に接近した。政策コンサルタント業としては与党(自民党)、野党(旧・民主党、現・民進党)のどちらにもシンクタンクを設立させ、同時に主催している。これこそ、「抜け目ない知的起業家」という竹中平蔵の始まりである。
そして彼を重用した小泉純一郎元首相のもとで、金融再編、郵政民営化に象徴される〝構造改革〟の旗振り役となった。そして、雇用環境は破壊された。まったく、なんてことをしてくれたのだ。
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