ハウステンボス「オランダ村」の奇跡
- 高下 豊光
- 2021年9月11日
- 読了時間: 5分
1992年に長崎の佐世保にオープンしたテーマパーク。だが、一度も黒字を生むことなく、誰が経営を立て直そうが生き返る様子はなかった。何と18年間もの赤字を垂れ流していた。

だが、救世主が現れたのだ。HISの創業社長の澤田英雄である。彼は、現地に住み込み問題点を洗い出し、わずか1年で黒字化に成功する。
エイチ・アイ・エス(H.I.S.)は2010年に長崎県佐世保市のテーマパーク、ハウステンボスを買収して再建に乗り出した。
旅行会社によるテーマパーク運営という「相性」もあり、それ以前にも助力を打診された経緯があった。また私が熊本の九州産業交通をグループ下においていたので、地元の人たちには「H.I.S.ならば助けてくれるかもしれない」という思いもあったようだ。
ハウステンボスは1992年の開業以来の赤字続きで、2003年には会社更生法を申請して経営が破綻した。その後、野村証券系のファンドの傘下で再建、営業を続けていたものの、赤字から抜け出せないままでいた。
澤田英雄は、ハウステンボスへの経営支援の打診を2004年ごろにも受けている。しかしハウステンボスのある佐世保市は雨が多く、周辺の商圏人口も少ない。それでいて、広い園内には空中電線が1本もないほどの過剰投資がなされていて、その維持にかかる経費は多額に及ぶ。テーマパークとしてはきれいな街であるが、「最悪」とも言える条件下にあると思ったので、支援はお断りした。
その後、2010年に佐世保市の朝長則男市長から再度、支援の要請を受けた。朝長市長は地元出身で市議や県議を務められて佐世保市長に就任した人だ。それだけに、ハウステンボスの再建は自身にとっても大きな課題と考えられていた。
とはいえ、一度お断りした2004年当時と同様、最新のデューデリジェンス(価値評価)でも苦しい状況はまったく変わっていなかった。特に、年々老朽化が進む設備の維持・更新費用は年間20億円と推定され、財務状況を考えればやはり再建は難しいと思われた。
そのデューデリジェンスの結果は厳格なものであったし、何よりH.I.S.経営幹部も強硬に反対したこともあり、澤田英雄は、再度お断りを申し上げたという。そして、秘書には「次のアポイントメントは絶対に受けないように」と指示した。というのは、澤田は「3度頼まれるとノーと言えない」という厄介な性格を十分に自覚していた。
しかし市長は、どこからか澤田の「3度目は断らない」という“悪癖”を聞きつけていた。ある日突然、H.I.S.の新宿本社をアポなしで訪ねて来られて、しかも入口で澤田がオフィスを出てくるのをじっと待っていたのだ。
こうして、澤田英雄の新たな挑戦が始められるのだ。
澤田は、できるところから改革に着手していった。彼は付属ホテルに居住し、場内をくまなく見て回った。まず、静寂に気が付く。音というものがなかった。これでは、風が流れる音しか聞こえて来ないのだ。寂しすぎる。夜になると、怖くなってくる。音楽を流そう。そうだ音楽だ。倉庫には古いスピーカーがしまってある。それを従業員総出で取り付けていく。業績が上向いてからは場内で生バンドの演奏イベントも行っている。
そして、閉鎖されているエリアに注目した。ここは夜にもなると怖くてとても近寄れない。従業員にはお化け屋敷のようだ、と陰口を叩かれている。そこで澤田は、思い切ってこのエリアをお化け屋敷にしてしまった。彼は「スリラー・ファンタジー・ミュージアム」と名前を付けた。夜には、音楽とシンクロしたイルミネーションを仕掛けたのだ。今では、ハウステンボスの夜の人気ゾーンとなっている。
さらに、所有面積の3分の1にあたるフリーゾーンがあった。澤田は、このゾーンにも手を付ける。入場料を取らないという無駄なゾーンであった。
澤田は、海に面しているフリーゾーンの一角にアトラクションを思いついた。それは、人気コミック「ONE PIECSE」である。主人公たちの船「サウザンド・サニー号」を再現した。乗客を乗せて実際に航海した。
さらに、澤田は、このフリーゾーンを活用して「観光ビジネス都市」を宣言した。実現すれば、単なるオランダの街並み再現にとどまらず、ひとつの観光都市を目指すというものである。その手始めに、新しいベンチャー企業や地元企業を誘致することにした。その一角に英語しか使えないゾーンを設けたのだ。佐世保には米軍基地がある。ハウステンボスの隣には、その宿舎がある。そこの家族に来てもらうのだ。
こうして「イングリッシュ・スクエア」が生まれた。今では学校単位で生徒がやってきて生の英語に接している。このエリアの運営担当は、外部のベンチャー企業である。
こうして世にも珍しいテーマパークのコラボ事業がすすめられたのだ。澤田は、医療観光も手掛けるプランをもっている。さらに、温浴施設の開発だ。すでに敷地内で鉱脈を掘り当てたのだ。
さらに挑戦は続く。「100万本のバラ祭」である。5月中旬から下旬にかけて、すべて自然開花のバラだ。
こうして、ハウステンボスは、約1年で黒字化に成功する。澤田が就任した日に感じた従業員の暗い顔は、もうどこにもなかった。誰もが生き生きと輝いていた。澤田は全従業員を前にして「我々の目標は、ディズ二ーランドだ」と宣言するのである。

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