男が決意する時、魅惑の歌声「新垣勉」の場合
- 高下 豊光
- 2020年9月8日
- 読了時間: 2分
ご存じだろうか、全盲のテノール歌手「新垣勉」を。
そして、大いなる彼の苦闘を。

彼は、1952年沖縄生まれ。
生後まもなく事故に遭い、失明した。
さらに、両親は離婚。
米国海兵隊員だった父親は帰国する。
しかも、すぐに母親にも捨てられ、母方の祖母が幼い彼を引き取って育ててくれたのである。
彼は、祖母を実の母親だと思っていた。
やがて、出生の秘密や失明してしまった事故の真相を知る日がやってきた。
新垣少年は、自分を捨てた両親を激しく憎悪する。
米国へ父親を捜しに行って、刺し違えたいとさえ思った。
もう生きていくのがイヤになってしまった。

高校時代、彼は井戸に飛び込んで死ぬ決意をする。
だが、たまたま通りがかかった人に止められ、自殺できなかった。
そして、苦悩する新垣勉を救ったのが、
ラジオから聞こえてきた「讃美歌」であった。
たちまち魅せられて教会へ足を運ぶようになった。
そこで一人の牧師と知り合いになる。
牧師は新垣勉の境遇に同情し、自宅に招いたり、誕生日を祝ってくれたのだ。
新垣は大学の神学部に進学した。
牧師はたいそう喜んでくれた。
「讃美歌」に魅せられ、在学中「聖歌隊」に入って活動した。
もう人生に悲観する新垣勉はいなかった。
そう彼のこころには「革命」が起きていた。
武蔵野音楽大学を卒業、声楽家になると決意した。
あれほど憎んでいた父親を、今ではすっかり赦していた。
むしろ感謝さえしている。
それは、世界的なヴォイストレーナーの言葉。
曰く、「あなたのラテン的な声は、もう少し磨けば素晴らしいものになる。神様と父親からの
最高のプレゼントに違いない」と絶賛されたのであった。
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